2018.05.02

吉野弘 詩

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皆さん こんにちは

本日ご紹介するのは私が二十代に出会った(もう遠い遠い昔ですが・・・(T_T) )
今でも忘れられない詩
吉野弘さんの「夕焼け」という作品をご紹介させていただきます。

     夕焼け
いつものことだが電車は満員だっだ。
そして
いつものことだが若者と娘が腰をおろし
としよりが立っていた。
うつむいていた娘が立って
としよりに席をゆずった。
そそくさと としよりが坐った。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。
娘は坐った。
別のとしよりが娘の前に
横あいから押されてきた。
娘はうつむいた。
しかし
又立って
席をそのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた。
娘は坐った。
二度あることは と言う通り
別のとしよりが娘の前に押し出された。
可哀想に
娘はうつむいて
そしてこんどは席を立たなかった。
次の駅も
次の駅も
下唇をキュッと噛んで
身体をこわばらせて。
僕は電車を降りた。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる。
何故って
やさしい心の持主は
他人のつらさを自分のつらさのように感じるから。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇をかんで
つらい気持ちで
美しい夕焼けも見ないで。

吉野弘 詩の画像1

最後まで読んでいただきましてありがとうございました。


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